禁酒して20数年になる。
きっかけは硬膜下血腫の手術である。
それまでは毎晩晩酌をしていた。それもかなりの量だった。
妻は何も言わなかったが、自分では内心、少し多すぎるかな? と思っていた。

ある時、子供たちを連れて県内では有名な六呂師スキー場に行った。
ゲレンデの端で立ち止まっていると、新雪に突っ込んでコントロール不能に陥った高校生が、後ろから大きな声で叫びながら突進してきた。振り返りざま私の顔面に、ストックを握った彼の「げんこつ」が入った。
サングラスが割れ雪の上に赤い血が滴り落ちた。私のストックはくの字に折れ曲がり、私の足がくの字になるのを防いでくれた。
片目をつむり怪我をした方の目で恐る恐る見てみると、幸い視界には異常はなかった。
ストックとサングラスだけで体には異常がないことを安堵した。
聞けば地元の高校が体育の授業で来ていると言うのだ。
後ろにいた子供たちに衝突しなかったことはせめてもの幸いだと思った。

翌日から毎朝、布団から起き上がった瞬間、頭が「カー!」っと痛い。それも30秒ほどで治ってしまう。
風邪でも引いたのかな? と思っていたが、1週間ほど経っても毎朝同じように続くので、スキー場での衝突が原因かもしれないと思って整形外科に行ってみると、
「これはうちでは診察できません。CTのある病院に紹介状を書きますからそちらに行って下さい」 とのことだった。
その日の内に日赤に行くと、
「頭を打ったことがありますか? お酒をよく飲みますか?」 と質問された。 二つとも身に覚えがある。
「即、手術をします。奥さんに連絡してください」 と言うことになってしまった。
硬膜下血腫で左右対称の脳が右側に圧迫されている様子が、レントゲン写真から素人の私にも直ぐに理解できた。
そして恐怖の手術が始まった。
麻酔なしで頭にドリルで穴を開けるのだ。勿論局所麻酔はしてあるから痛みはないが、ギリギリギリとドリルの刃が頭蓋骨に穴を開ける音、チュウチュウチュウと血腫を吸引する音、ツンツンツンと皮膚を引っ張る感覚はすべて分かる。
先生と会話を交わしながら、お尻をつめってみたり、隙間から漏れてくる光を確認したり、足先を動かしたりして、まだどこにも異常がないことを確認していた。

普通は一生頭蓋骨で固く守られているはずの脳だが、私の脳は細菌やカビの胞子が飛び交う外気に触れ、外の明かりを見てしまったのだ。
「何も問題はありません。 今まで通りの生活をして結構です」 と言われても、マイナス点は全くゼロではないだろう。
何か体にプラスになることをすれば、プラス・マイナス・ゼロで手術前と同程度になるだろうと考えた。
それが禁酒だった。

それから10年間は一滴の酒も口にしなかった。会社の宴会などには積極的に出席するようにして、禁酒したことを早く知ってもらうように努めたが、毎回ウーロン茶であることを弁解しなくても良くなるまでに3年ほどかかった。

10年過ぎると娘や息子、甥や姪の結婚式が続くようになり、冠婚葬祭など特別な日には解禁することにした。
しかし、その特別な日も近頃はなくなり、盆と正月程度になってしまった。
妻は時々晩酌をすることがあるが、私がお酌をしてやる。我家にこの逆転現象が起きて久しいが、慣れてしまえばこれも普通である。

データ
  • 2006.07.17(月)
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